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第4話

 ほどなくして店の奥から老婦人がやってきた。目の前の女性と似ている。 「お母さん!」 「加奈子、よく来たわね。人生お疲れさま」  見た目はほぼ変わらない年齢に見える母娘は、うれしそうに手を取り合っている。ここへ来て初めて、女性の笑顔を見た。 「加奈子、ごめんね。自分の二の舞はさせたくなくて自立した女性にと思ったのに、あなたはしっかりしすぎちゃったもんだから。なんでもひとりで抱えることになって……」 「あら、いいのよ。なんでも自分で決められるって、しんどいこともあったけれど、自由だったわ。こんな男を選んで失敗したのだって、それもやっぱり私の自由だもの」  もはや周りの男たちは完全に置いてきぼりだ。  案内せずとも母娘は席に行ってしまい、不二夫は慌てて女性の紅茶と、老婦人のおかわりを用意しにカウンターへ向かう。 「なーんだ、丸くおさまったじゃん。オレいらなかったじゃんって……い、てっ」  拳骨が碧の頭に落とされる。だが鬼のような白の表情を見ても、首をすくめるだけだ。……強い。 「お前……始末書は厚さ一センチ以上だからな」 「いやいや……時代はペーパーレスでしょ。白、いだっ!」  ふたり共、言い争うのは自由なのですが、ひとつ忘れていますよね。 「あのー、私はどうすれば」  女性たちはもはや彼に対して怒る価値もなかったのか、いないも同然に扱われていた。置き去りにされた男性は行くあてがなく佇んでいる。 「お客様はぁー判定、済んでます?」  無機質な声が男性に問いかけた。こういうときの碧は本当に意地が悪い。(自分のせいだけれど)急な呼び出しをくらったこととか、これから山のような始末書を書かなければいけない鬱憤を、男性で晴らすつもりだろう。 「判定……あ、済んでます。あの私、……短期コースって……言われました」 「うーーっそーー。嘘だね!!」 「ええっ」 「あんたは中期コースだ。それで今嘘をついたから中期コース×2になりましたー」 「そんなっ」 「こっちからは判定の結果は丸見えなんだよ。頭の上に刑期が浮いてるんだから」 「ひどいです! 騙したんですね」 「騙しただと? 自業自得だろうがー。人間、死んでもそう簡単に性根は入れ替わんないもんだね。だいたい、死神を欺こうなんざ百万年早いっての」  あ、碧がいきいきしている。いや死神なんだけれども。 「あー、思い出してきた。あんたが死んだとき、迎えに行った俺が閻魔様のところまで案内する間に、勝手にここへ来たろ? ったく、変な能力だけは持ってるんだな。判定はいつ済ませたんだろう?」 「加奈子が来るまで待っていたかったんだ! あ、愛していたから」 「本当かなあ? 判定結果に怯えて、ここに隠れていただけじゃないの?」  それから碧は、男性が家庭を顧みずギャンブルや女遊びを繰り返した挙げ句、病気になってからも家族や病院や散々迷惑をかけて死んでいったことが、刑期が長めである理由だと男性に伝えた。  その様子は冷酷で、不二夫は温度を感じないはずなのに震えがきた。碧は他の死神にくらべてちょっと抜けているところもあって、なじみやすいなんて思ったこともあったけれど、やっぱり死神は死神だ。「人の心」なんてものは持っていない。  男性は碧に首根っこを掴まれて、店を出て行った。判定が済んでいるなら、地獄の門を目指しているのだろう。

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