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第14話

  ◇◇◇  ある日の学校帰り、高校生の白はいつものように不二夫の後ろを歩いていた。  同じ学校で一学年上の不二夫は、音楽を聴いているのか、機嫌よさそうに軽い足取りで駅までの道のりを進んでいる。  不二夫は年上だが、高校に入り急にニョキニョキと成長した白に比べると、随分小柄だ。  いつか図書館で本を取ってあげたことがある。  踏み台を使えばいいのに、横着をして背伸びでなんとかしようとしてたから、見るに見かねたのだ。 「あ、ありがとう」 「……いえ」  唯一交わした言葉。見上げた大きな瞳が印象的だった。  穏やかでマイペースな不二夫は、白の存在も、いつも後ろをつけていることも気づいていないだろう。それでよかった。  ふと白は、不二夫の前方から猛スピードで向かってくる自転車を見つけた。  歩道を走っていて、歩行者である自分たちが視界に入っても、そのスピードを落とすことなく近づいてくる。  音楽に気を取られていたのか、気づくのが遅れ慌てて避けようとした不二夫がバランスを崩し、トラックが走る車道側によろけた。 「危ない!!」  考える前に迷うことなく車道に飛び出ていた。自分の身体ごと盾にして不二夫を歩道に戻す。驚いたどんぐりのような眼が白をみつめている。  最期を迎える瞬間の人と目が合うなんて嫌だろうな。だから白は目を閉じる。  本当はこんなかたちで不二夫の記憶に残りたくない。恐ろしいものを見せてしまって申し訳ない。ゆっくりとそんなことを考えるうち、大きな衝撃音がして何も見えなくなった。 「白……おい、しーろ」  何度もしつこく呼ばれて、うんざりしながら目を開けた。  碧があおむけになった身体をまたいで、白を見下ろしている。 「やっとオレの番が回ってきた! 待ちかねたよー」  碧は白の姿が面白いらしく、嬉々とした様子を隠さないでいる。 「みーんな立候補するんだもん、お前のお迎え。それにしても今回は酷いねえ。血溜まりで、足が汚れちゃう」 「…………いいから早く連れていけよ」 「まあまあ……そうあることじゃないんだから、もう少し楽しませてよ。今回は車に轢かれそうになったあの子を、身を挺して庇ったと。そして自分が轢かれちゃった。そういうことでいいかな?」 「なんでもいい」 「身体、原型留めてないぞ。ひっどい姿だなぁ。親が泣くぜ」 「うるせーよ」 「しかも今回の不二夫って、お前のこと知らなかっただろ? 報われもしないのに、毎度健気なことで」 「俺がそうしたかっただけだから、いいんだ」  もうどうでもいいから、早く死なせてくれ。  今のままでは目の中に血がにじんで、不二夫の無事を確認できない。白の焦燥を知ってか知らずか、碧はのろのろと書類を取り出した。 「まあ、こんな突発的なことだったから、拾いきれなかったのかな、玉湾様」 「…………」  なにか引っかかることを聞かされた気がするが、いよいよ痛みも感じなくなり寒さも限界だ。どうすることもできない。 「ま、書類に不備はなさそうだから、正式に進めるな。って、白? もう事切れちゃったか…………十六年の人生お疲れさまー」

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