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第31話

 1Kの間取りは、白臣が学生時代から就職してしばらく住んでいた部屋とよく似ている。キッチンは小さなスペースながら、工夫して食器や調理器具が並べられていた。  節約していると言っていたし、まめに自炊しているのだろう。ここで生活している不二夫が自然と目に浮かんだ。  愛おしくて、大切な不二夫がいる風景。その隣に立つのは――。 「会いたかった」 「えっ……」 「俺はもう不二夫に出会う前の自分が、どうやって生きてきたかわからない。本当に世界が変わって、心が嵐みたいに毎日大変なんだ」  はっと息を呑んだ不二夫が、黙って白臣を見上げている。 「好きだ。どうしようもなく、不二夫のことが好きなんだ」  言ってしまった、何度人生を繰り返しても言うつもりのなかった言葉を。きっと今生の不二夫にしか発せない言葉を、言ってしまった。 「だから俺は不二夫の気持ちが知りたい」 「白臣さん……」 「迷惑なら、もう二度と会わないから、このまま追い出してくれ」 「俺が、白臣さんを迷惑になんて思うと思いますか?」 「情けないがわからない……自分の気持ちすら、ずっと認めてやれなかった」  不二夫が白臣の手をゆっくりと握る。震えていた拳を解すように、やわらかく包み込まれた。 「……不二夫」 「白臣さんは元さんのことがあったのに、地元にいるときからやさしくしてくれて。東京でもいつだって俺のこと応援してくれて、一緒にランチをするのもすごく楽しみだった。でも」 「うん」 「……白臣さんのことがわからなくなって、不安だった」  おそらく、看病してくれた日のことを言っているのだろう。その時のことを思い出したのか、僅かに辛そうな表情を覗かせた。   それから、熱に浮かされ、手を離してくれなかった白臣の横でずっとドキドキしていたこと。  それなのに朝になったら触れてくれなくて、やっぱり勘違いをしていたのかもしれないと落ち込んでいたと不二夫から聞かされた。 「ごめん……本当に」  戻れるなら、あの時の自分を殴ってやりたい。  自覚するのが遅かったり、悪あがきで気持ちを認めないようにしていたことが、結果的に悩ませていたなんて。  不二夫の気持ちを考えていない証拠じゃないか。 「俺が不甲斐ないばかりに、嫌な思いをさせた。すまない」 「違うっ。白臣さんが好きだから不安だっただけで、嫌だったわけじゃない」 「えっ……」 「だから、俺も白臣さんが好きだって! …………言ってます」 「本当に?」  コクンと不二夫が頷く。  信じられない――白臣自身の気持ちを自覚しただけでもありえない出来事だったのに。  もう、我慢しないで触れてもいいのだろうか。  震える手をゆっくり近づける。抱きしめると、不二夫が囁くようなため息を吐いて身体を預けてきた。  夢のようとはまさにこのことだ。  腕を回した瞬間体温が上がって、周りの音が聞こえなくなる。そうすると今までにないくらい密着しているのに、僅かな隙間すらもどかしくて、その身体をさらにかき抱く。 「白臣さん」 「ごめん……苦しかったか?」 「ううん……好き、です。白臣さんが好き」  俺も――俺だってずっと焦がれていた。本当は。  だけれど白臣には万に一の可能性もないのだから、なかったことにしていた。  心の奥深くに閉じ込めていた気持ち。 「好きだ……不二夫」  薄く開く不二夫の唇に触れた。信じられないほどの甘い感触に瞠目する。  髪に指を埋めて手繰り寄せ、夢中になって何度も口づけた。 「んっ……ふっ……ううっ、んぅ……」  気づけば不二夫を押し倒し、上から見下ろしている。荒い息がおさまらず落ち着かねばと焦るが、不二夫の濡れた瞳が揺れていて、理性が吹っ飛びそうになる。ただ――。 「……白臣さん?」 「ひとつになりたい、お前と。でも……どうすればいい?」

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