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第4話
男は驚いていた。
「えっと、ごめんなさい」
男はため息をついて、木箱から離れた。向かった先にはカメラが置かれている。
「え、カメラ!?撮影してたの?」
カメラを確認して男はため息をついた
「そうだよ、お前が入ってきた瞬間もばっちり映ってる。これは編集しないとだめか」
と男は顎に手を当てた。
「でもじっとしてたみたいだな。これならすぐに終わる」
っとカメラ三脚から外し移動させた。
立ち上がると
「こっち来て」
と男は手招きした。
「カメラに映ると面倒だから」
と言われカメラの反対側に回った。
男はカメラを手に持ち、先ほど持っていた木をいろんな角度からどうがで撮影し始めた。
木はきれいに彫られていて、白鳥の形をしていた。
すごくきれいだが、撮遺影をしているので黙って動かずそれを見ていた。
何度か撮って映像を確認してと繰り返し、納得したのか
「よし」
と男は改めてこちらを見た。
「そういえば学校は?」
疑問に思うのが遅い。この人は何かズレている。
「今日は休みです」
「今日は祝日か」
とまたズレたことを言って、木彫りを手に取った。今日は祝日なはずがない。知識のある人間ならそんな事気づくはずだ。
「これどう?」
「すごくきれいだと思います」
悪態をつくように言ってしまった。
「不機嫌だな。どうしたんだ?」
「今日は祝日じゃないですよ」
「そうか」
と木彫りを持って奥の階段を昇って行った。
昨日は暗くて階段があるなんて気づかなかった。
後についていくと、二階の部屋には木彫りがずらりと並んでいた。
「すごっ、これ全部作ったの?」
「そう、材料は知り合いの建築関係で働いてる人からもらってタダで作れるよ」
笑って男が言うが、タダでも腕がないとこんなにいいものは作れない。
動物や、地蔵なようなものだったり、電話機などわざわざなぜ木で作るのか疑問なものまで並んでいた。丁寧で柔らかさを感じる。
木のにおいが強かった理由が分かった。
きれいに片付けられているけど、取り切れていない木のカスが隅の方にたまってたりする。
ここでずっと掘ってるの?
「一か月くらい前からかな。動画で撮って動画サイトにも上げてるんだ。ASMRとしてもそれなりに見てもらえてるよ。再生数4桁いかないけどねー」
と笑った。
「ふーん」
興味なく答えた。でもあの音は確かに心地よかった。動画といえば、僕にとってはいじめの道具だった。変なところを撮影して拡散する。気分の悪いもの。
「さて、俺は仕事に行くけど、君はどうする?」
「え、仕事?」
「そりゃ俺も仕事してるよ。木彫りだけで食っていけるほどじゃないからね」
「そっか、ここ居心地がよかったんだけどなー」
今日はここで過ごしたかったけど主が居ないのに居座るわけにもいかない。
「ならここにいる?これを壊したり、盗んだりしなければいても構わないよ。テレビもないからつまらないと思うけど」
「本当!?」
僕にとってテレビなんてなくても居心地が良ければそれでよかった。
一人になれる場所が欲しかった。安心できる場所が欲しかった。
「じゃあ居させる代りに、さっきの場所にまだ木くずが散らかってるから掃除しといて。それを袋に入れてここに届けて」
と男はメモを書いた。
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