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第一章・5
「私の身の回りの世話をして、一緒に食事を摂ってくれればそれでいい」
「そ、それって。組員になれ、ってことですか!?」
「君が嫌なら、盃は取らせないよ。バイト、くらいの気持ちで気軽に、ね」
気軽に、ヤクザの組長の付き人なんかになれるはずがない。
(でも、下手に断ったりしたら)
殺されて、海に沈められるかもしれない!
「坊、おふざけも大概に!」
真田の声が、今の秀実には救いの響きを持っている。
「最近、私が太ってきてる、と言ったのは真田だよ? 私の食事制限に、秀実くんを使おうと思って」
それに、と士郎は秀実の顎に手を掛けて、上を向かせた。
「彼もきちんと体を作れば、撮影の仕事に参加できるかも」
「……なるほど、お考えになりましたな」
決まりだ、と士郎はにこやかに笑った。
その笑顔は素敵で、とても極道とは思えない。
思わずつられて頬を緩ませた秀実だったが、次の瞬間空気の色がさっと変わった。
「水流 秀実は、今から私の付き人だ。そのつもりでいるように」
一転してドスの利いた声に、秀実は毛を逆立てた。
一斉に、はい、と答える男衆の声も、野太い凄味を持っている。
(ああ、やっぱり僕、とんでもないことになっちゃったんだぁ!)
秀実の動揺もまるで無視して、士郎はフレンドリーに肩を抱いてきた。
「じゃあ、まずは夕食を一緒に食べよう。ついて来てくれ」
「はい……」
ホットサンドと、ブレンドコーヒー。
それがずいぶん、高くついた。
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