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第一章・6
士郎はカフェの駐車場に止めてあったプジョーに秀実を乗せ、自宅マンションへ向かった。
マンションは秀実の想像通り高価そうな物件で、スリッパさえも恐々履いた。
「父の残したものなんだ。税金がバカにならないから、もう売ろうかと思ってるんだけど」
真田がうるさいから、大人しく住んでるのさ、と士郎は苦笑いした。
秀実が何も言えないでいると、士郎はバスタオルを放って寄こした。
「まず秀実くんは、バスを使ってくれ。何があったか知らないが、しばらくお風呂に入ってないだろう?」
「すみません」
そう。
この二週間ほど、僕は住む家さえ失っていたんだ。
脱衣所には、姿見と体重計が置いてあった。
鏡に、裸の自分を映してみる。
痩せて、あばら骨まで浮いている。
体重計に乗る気は、しなかった。
打たれたらすぐにダウンするボクサーみたいな、そんな目盛りを指すに決まってる。
冷たいタイルに足を乗せ、熱いシャワーを浴びた。
「ああ……、生き返る……」
髪を洗い、体を洗い、大きな楕円形のバスタブに身を沈めた。
気持ちいい。
心地いい。
ああ、このまま……。
「秀実くん! バスタブで寝ちゃダメだよ!」
士郎の大声で、秀実は我に返った。
「部屋着、置いておくからね」
そう言い残し、士郎は脱衣所から出て行った。
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