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第二章・4
秀実の目にあふれる涙を見て見ぬふりをし、士郎は明るく言った。
「付き人の給料は、弾むつもりだ。奨学金も、私が全額返済しよう。それから、明日はショッピングだ。仮にも近藤組の組長の付き人が、よれよれのシャツを着ているわけにはいかないからね!」
「そんな。そこまで面倒をおかけするわけには」
「じゃあ、どうする? また食い逃げ生活に戻るか?」
「それは……」
いいんだ、と士郎は秀実の両肩をしっかり掴んだ。
「いずれ、何かの形で恩返ししてもらうよ。今は、私を頼っていいんだ」
「ありがとうございます。ありがと、う、ございま……」
「ほら、泣かないで」
さっそく仕事だ、と士郎は秀実を立たせた。
「食器を、食洗器にセットして洗ってくれ。それが済んだら、バスルームで私の背中を流して欲しい」
「は、はい」
入浴の準備をする士郎の傍らで、秀実は食器を片付けた。
スーツを脱いでシャツになった士郎の体は、胸板が厚く、腹は引き締まっている。
(全然、太ってなんかいないと思うけどな)
ちらちらと視線を寄こす秀実に、士郎は声をかけた。
「スーツに、ブラシをかけておいてくれないか」
「はい」
フルオーダーの高価なスーツに、秀実は優しくブラシをかけた。
ちょうどそれらが終わった時に、バスルームから士郎の声がした。
「秀実くん、来てくれ」
「は~い」
秀実は、すっかり油断していた。
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