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第二章・5
「背中を、流してくれ」
「……!」
バスルームへ入った秀実は、凍り付いた。
士郎の背には、極彩色の竜の和彫りが施されていたのだ。
そう、どんなに優しくても、この人は極道。
思いきり、それを知らされた。
そして士郎も、秀実にそのことを教えたかったに違いない。
「はい、スポンジ」
手渡された海綿に、震える手でボディソープを落とした。
手でよく泡立て、そっと士郎の肩に乗せた。
そこから、静かにていねいに、背中を流していった。
無言の秀実に、士郎は問うた。
「私は、こういう人間だよ。父が急逝してから、若くして組を継いだ。きれいなシノギでやっていこうとは思っているけど、ヤクザには変わりないんだ」
怖いか、と士郎は訊いてきた。
いいえ、と秀実は答えた。
「少し、びっくりしましたけど。怖くはありません」
「ありがとう」
そう、この人は僕の恩人。
怖くなんて、ない。
「シャワーで、流します」
「うん、頼むよ」
温かなバスルームで、何気ない会話を交わした。
背中の竜が場違いなほど、和やかな時を過ごした。
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