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第三章・2
「んう……」
遮光カーテンの隙間から、光が射している。
一瞬、秀実は自分の置かれている立場が解らなかった。
ふかふかのベッド。
良い匂いの寝室。
次第に、思考の焦点が合って来た。
「あ、近藤さん」
隣に寝て……、いない!
「え! あ!?」
サイドテーブルの時計は、8時を回っている。
「寝坊した!」
ぶかぶかのパジャマを、これまたぶかぶかの部屋着に着替えて、秀実は慌ててリビングへ走った。
「すみません! 寝坊しました!」
「ああ、ちょうど朝食ができたところだ」
そんな。
ヤクザの組長に、朝食まで作らせるなんて!
「すみません……」
「いいから、顔を洗っておいでよ」
にこやかな士郎は、なんともエプロンの似合う男だ。
昨日バスルームで見た竜は、幻だったのかと思えるほどだ。
顔を洗い、歯を磨き、秀実はキッチンへ戻った。
フレンチトーストにカフェオレ、ベーコンエッグに、ヨーグルトに、フルーツ。
素敵な朝食が、秀実を待っていた。
だが、士郎はプロテインとコーヒーのみ。
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