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第四章・2

「今夜は遅くなるから、先に寝てていいよ」 「お仕事ですか?」 「うん。撮影があるんだ」  一緒に暮らして気づいたのは、士郎と共に過ごす時間は意外に少ない、ということだった。  一応『付き人』という肩書なので、差しさわりのない場には秀実もついて行く。  だが、秀実がついて行けない所に、士郎はひんぱんに出て行ってしまう。  近藤組の会議や、他組との会合などがそうだ。  堅気の秀実に、裏社会を見せたくない。  そんな士郎の、気遣いだった。  そして、もう一つが……。 「撮影、かぁ」  組長自らAV俳優だなんて、と秀実は思う。  だが、それで士郎のことを嫌ったり蔑んだりすることはない。  これも立派な仕事なんだ、とDVDのケースを手に取った。 『堕ちる蝶 ~ヤクザとの快楽に溺れて~』  パッケージに大きく載せてあるのは、士郎ではなく主演の俳優だ。  肝心の士郎は、ほぼ背中を向けて顔もほとんど見えない。  しかも、隅の方に小さく、だ。 『そりゃあ、主演さんを大事にしなきゃ。文字通り、体を張って演技してくれるんだから』  士郎はそう言って微笑んだが、秀実には不満だ。 「近藤さんだって、体張ってるのに」  でも、とも思う。  このパッケージに、大写しで俳優と絡む士郎の姿を見たくもない。

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