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第四章・7

 士郎は思い出を語るような顔で、優しい目をしている。 「ミチルくん、キスが苦手でね。何度も撮りなおしたんだよ」 「そう、ですか」 「どうかなぁ。ちゃんと恋人同士みたいなキス、できてたかな」  やめてください、近藤さん。  そんな目で、他の人を見ないでください。 「後日談だけど、あの時ミチルくんには付き合い始めた彼がいたそうなんだ。仕事とはいえ、辛かったんだね」 「……」 「秀実くん?」 「恋人がいるのに、他の人とキスするような人の話、しないでください」  振り絞るような秀実の声に、士郎は驚いた。  いつも穏やかな彼が、こんなキツイことを!? 「いや、仕事だから。ね。彼も仕方なく」 「僕なら、恋人がいるならAVの仕事はしません」 「秀実くん……」  頬を真っ赤にして。  そして、その頬にはぽろぽろと涙をこぼして。 「どうしたんだ、今日は何だかおかしいぞ」  士郎は秀実の前髪をかき上げ、額に手を当てた。  熱い。  そして、その眼差しも熱い。 「秀実くん、もしかして」  発情、したのかもしれない。  士郎は初めて、性の対象として秀実を見ていた。

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