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第六章・4

「可愛い顔して、エッチなΩくんだったわけ、か」  しかし、その心根はピュアなことに違いはないのだろう。 『僕なら、恋人がいるならAVの仕事はしません』  こんな、古風なことを言っていたのだ。  彼は軽いノリで、多くの人間とセックスを楽しむ性格ではないだろう。 「いいのかなぁ。私は仕事で、大勢の人間とセックスをしてきた男だぞ?」  そしてこれからも、その俳優業は続く。 「好きになってくれたのは嬉しいけど、辛いかもよ?」  すやすやと眠る秀実の隣に、そっと腰を掛けた。  パジャマを着せてやったが、よほど疲れたのだろう。  彼が起きることはなかった。 「さて、私も寝ようかな」  はぁ、と息をついた。 (Ωに狂わされたのは、初めてだ)  抗いがたい、フェロモン。  これまでに、そんな経験はあった。  それでも士郎は、乗り越えてきたのだ。  背中の竜にかけて、自分を律してきた。  それを易々と破って見せたΩ・秀実。 「多分、彼が特別なんだ」  一ヶ月間、寝食を共にしてきた秀実は、素直で優しくて、明るい子だった。  裏社会ではまず、お目にかかれない子だった。 「赤ちゃんできたら、責任取るからな」  そう言って、明かりを消した。

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