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第七章・2

「ただいま」  疲れた頭を抱えてドアを開けると、奥から秀実がそっと出てきた。 「お、おかえりなさい」  小さな声は、昨夜のことをまだ気にしているのだろう。  うぶな秀実の仕草に、士郎はつい笑顔になった。 「秀実くん、君のことを『秀実』と呼んでもいいかい?」 「は、はい。それで、あの」  言いたいことは、解ってる。 「私のことも、士郎さん、と呼んでくれるかい?」 「はい!」  二人の空気は、そこでようやく動き始めた。  士郎のバッグを受け取り、脱いだ靴を並べる。これは、後で磨く。  スーツを脱ぐ手伝いをし、ジャケットをハンガーに掛ける。これは、後でブラッシング。  こんな風に、少ないながらもこまごまとした仕事を、秀実は毎日やっていた。 「先にバスを使ってもいいかな? お腹空いてないか?」 「大丈夫です。どうぞ」  そして、秀実は服の袖と裾をまくる。  士郎の背中を流すためだ。  だが今日は、士郎がいつもと違うことを言い出した。 「秀実もおいで。一緒に入ろう」 「えっ!?」  おや、とした顔の士郎だ。 「裸になるのが、恥ずかしいか? 昨夜はあんなに乱れたのに?」 「いえ、あの、その、ちょっと」  にっこり笑って、いいからおいで、などと言われ、秀実はふらふらと服を脱ぎバスルームへ入った。

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