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第八章・3
「じゃあまず、ここからあの流木辺りまで、歩いて。楽しそうに、ね」
「はい」
「解った」
じゃあ、と士郎と秀実は目を合わせた。
自然と、笑みがこぼれる。
風を受け、波をよけ、軽やかに歩く秀実。
その姿に、士郎は思わず彼の手を取った。
(士郎さん、外で初めて手を握ってくれた)
秀実は感激で、華やかな中にも恥じらいを含ませた表情だ。
「いいですね、秀実くん。自然な中にも、華がある」
カメラマンがそう呟いたほど、今日の秀実は魅力的だった。
「問題は、絡みだよ。泣き出したりしなきゃいいけど」
監督の心は、すでに先へと飛んでいる。
「はい、カット!」
もう、終わり!?
秀実が戸惑っていると、今度は防波堤の方へ連れて行かれた。
「じゃあ次に、ラストシーン撮るから」
「ラスト!?」
一つひとつに驚く秀実に、士郎は笑いながら説明してくれた。
「服を着てるシーンは、まとめて先に撮っちゃうんだよ。時系列順には、撮影しないことが多いよ」
「そうなんですね」
勉強になるなぁ、などとうなずいている秀実は、いい具合にリラックスしている。
(これなら、今日中に撮影は終わりそうだ)
スタッフはみんな、秀実を好意的に見ていた。
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