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第九章・2
「ちょっと、休憩しようか」
監督はそう言い、士郎は秀実の中から去った。
「秀実、大丈夫か?」
「はい……」
監督が煙草を指に挟んで、秀実に声をかけた。
「いいよぉ、秀実くん。すっごくエロい顔してたよ」
「そ、そうですか?」
実は嘘だ。
カット寸前の秀実は、行為から気がそれていた。
監督は、その変化を敏感に感じ取っていたのだ。
(でも、ここで注意すると、秀実くんはきっと緊張する)
彼は褒められれば伸びるタイプ、と監督は判断した。
「後半も、頼むね」
「はい!」
良かったな、と士郎に言われて喜んでいる秀実は、すっかり自分を取り戻している。
これなら、後の撮影はうまくいくだろう。
「じゃあ、そろそろやろうか」
秀実は再び、士郎を受け入れた。
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