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第九章・3

 士郎の責めは、変化に飛んでいた。  時にはゆっくり抜き差ししたり、体を深く曲げて密着させて細かく動いたりと忙しい。 (ああ、いけない。ホントに気持ちよくなってきちゃった)  でも、大声は上げないようにと監督から釘を刺されている。  秀実の漏らす声は、あくまで控えめで切羽詰っていた。  静かな中、肌の触れ合う肉の音や、ぬちゅぬちゅと粘っこい体液の音が拾われる。  視聴者は、これらの音で興奮するのだ。 (秀実、大丈夫かな)  士郎は、そっと秀実の顔をうかがった。  苦しそうな表情だった秀実の眉間からは力が抜けており、どこかうっとりとした顔つきに変わっている。 (よかった。感じてくれてるみたいだ)  次のシーンは、秀実の騎乗位だ。  だが、これなら彼も巧くやりこなしてくれるだろう。  士郎の思った通り、カットの後では、秀実は実に自然な動作で士郎の上に跨った。  泣きも甘えもせず、ただ真剣に撮影に臨む秀実の姿は、監督やスタッフを驚かせ、喜ばせた。 (これは、売れるかもしれない)  そんな狸の皮算用まで、頭をよぎった。  士郎の刺青がある以上、これはヤクザものだ。  そういうものを喜ぶ性癖の持ち主が、観るものだ。  だが、そこには暴力も凌辱もなく、ただ純愛の空気が漂う。  そのギャップに、監督は確かな手ごたえを感じていた。

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