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第九章・6
しまった、と秀実は顔を引き攣らせかけた。
すると、士郎が秀実の肌をさすったり、キスをしたりとずいぶん優しい雰囲気を作ってくる。
(士郎さん……)
二人はもつれるように横になり、後はひたすらキスをした。
「はい、上出来!」
監督の声に、カメラが止まった。
「ごめんなさい! すみません!」
必死で謝る秀実に、監督は鷹揚だった。
「初めてだからね、仕方がないよ。いや、むしろあの方が自然でいい」
「秀実、いい演技してたぞ」
「士郎さん、フォローありがとうございました」
(でも、あれは演技じゃなかったのにな)
本気で抱かれて、本気でイッてしまったのだ。
(皆さんの見てる前で!)
秀実がこわばる前に、監督は最後のシーンを撮るように指示した。
「ラストは、ラブラブでね」
スイムパンツをちゃんと穿いた士郎と秀実は、互いにペットボトルの水をかけ合い、体を流して清めあった。
士郎は大きなタオルで、秀実の体を拭いてやる気配りまで見せている。
そんな彼の優しさに、秀実は笑顔になった。
「秀実くん、ホントに笑顔がいいですね」
「そうだな!」
監督は一発でOKを出し、この日の撮影は無事に終了した。
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