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第九章・8

「さて、秀実。今夜はどうする?」  ベッドの上で、士郎は意地悪く言った。 「あの、えっと。士郎さんがしたいなら……」 「秀実は、私にどうして欲しい?」 「……抱きしめて欲しいです」  うん、と士郎はその長い腕で秀実を抱き、広い胸に収めた。 「どうだった? 撮影は」 「時々、本気で気持ち悦くなっちゃって。それって、いけないことなんですか?」  そんなことはないよ、と士郎は微笑んだ。 「私もすごく燃えたしね。いいこと、なんだよ」  撮影、とくにAVでは、俳優同士の信頼関係が出来を左右する、と士郎は言う。 「相手を信頼してないと、気持ち悦くなんかなれないからね。演技を越えた、演技だ」  信頼。 「僕、士郎さんを信頼してます」 「私も、秀実のことを信頼してるよ」 「これからも……、ずっと……」  そのまま、秀実は眠ってしまった。 「疲れたんだね、秀実。今日はよく頑張ったよ」  士郎は、そんな秀実の額にキスをした。  そっと抱きしめ、彼の安らかな寝息を子守歌に聴いた。

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