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第十章・2

 食後、コーヒーを飲みながら、士郎は経営会議で出たイヤな話を秀実に打ち明けた。 「実は、秀実に二作目のオファーが来てるんだけど」 「ホントですか?」  明るい秀実の声が、士郎には意外だった。 「嬉しいのか?」 「僕、スタッフの皆さんや視聴者の人に、認められたんだなぁ、って思って」  やっぱり秀実は素直だね、と士郎はその頭を撫でた。 「でもね、次の筋は『凌辱もの』なんだ」 「無理やり、ってことですか」 「しかも相手役は、私じゃない」  そこで初めて、秀実の目に不安の色がさした。 「どなたですか?」 「秀実もよくしってるだろ。多胡だよ」 「多胡さん」  スキンヘッドにいかついボディで、武闘派と周囲には思わせているが、実は優しい男性だ。  時々カフェで一緒になり、パフェをご馳走になったこともある。 「嫌なら、断っていいんだ。私が言えば、みんな従う」 「……」 (でも僕が断れば、きっと士郎さんが困るんだ) 「やります、僕」 「秀実!?」 「俳優のお仕事に、興味があるんです。いろんな役、やってみます」  秀実のまなざしには力があり、心からそう思っているのだろう。  士郎は、情けない溜息をついた。 「ぅあ~」 「士郎さん、『よく決心したな』とか言ってくださいよぉ」  本人にやる気があるなら、仕方がない。  士郎は諦めて、撮影班にOKのラインを送った。

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