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第十章・5
場所は、廃屋。
以前は医院だったと思われるような設備が、置いてある。
診察用のデスクに、丸椅子。そして、簡易ベッド。
そこに、体の前で手錠を掛けられた秀実が、荒々しく押し入れられてきた。
恐怖に青ざめた表情は、とても演技とは思えない。
そして、彼をそこへ監禁した多胡の登場だ。
白の上下に、派手なシャツ。ゴールドの喜平ネックレス。
いかにもヤクザです! といった彼の格好に、士郎は吹き出した。
「似合わないなぁ、多胡」
「失礼ですよ、士郎さん」
これまた頑張った作り声で、多胡は「しゃぶれ」と秀実に命令する。
手錠を掛けたままフェラチオをする秀実が大写しになり、多胡は顔も見せない。
むせて、涙をにじませながら施す秀実と、その息遣い。唾液の水音。
(やばい。勃ってきた)
もぞりと動いた士郎を、秀実は見逃さなかった。
(感じてくれたのかな、士郎さん。僕、エッチに撮れてるのかな?)
凌辱とはいえ、暴力シーンなどは入らない。
俳優は、大切に扱うのがこの業界のルールだ。
とはいえ、多胡が秀実の顔に射精したシーンでは、士郎は憤った。
「こ、これは! やりすぎじゃないのか!?」
「士郎さん、落ち着いてください! あれは擬似精子です!」
擬似精子とは、コンデンスミルクなどに卵白を加えて粘り気をだした、偽物の精液だ。
さすがに組長の情夫に、本気でぶっかけをやるほどスタッフも怖いもの知らずではない。
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