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第十一章・5

「近藤さん、お話があります」  組の事務所で、士郎はAV監督の組員に呼び止められた。 「悪い話なら、聞かないぞ」 「いい話ですよ。すごく、いい話!」  実は、と監督は身を乗り出して語り始めた。 「私の友人に、テレビのプロデューサーがいるんですが」 「あの、深夜帯の番組の?」 「そう。ミチルがレギュラー出演している番組です」  秀実のAVを見たそのプロデューサーが、彼をゲスト出演させたい、と言ってきたらしい。 「ミチルの後輩に当たるわけでしょう、秀実くんは。そこを絡ませても面白い、と」 「テレビ、か」  深夜帯とはいえ、秀実のメジャーデビューだ。  断る理由が、無かった。 「秀実をすぐに呼ぶから、詳しい話を詰めよう」 「じゃあ私は、そのプロデューサーに連絡を取ります」  さっそく監督は、電話を掛けに走って行った。 「今度はAVじゃないんだ。秀実、どんな顔するかな」  わくわくとした心地で、士郎も携帯を手にした。

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