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第十一章・6

 いつものカフェに、四人の男が掛けている。  士郎、秀実、監督、そしてプロデューサーだ。 「バラエティ番組なんですけどね。ちょっぴりエッチな要素の入った」  プロデューサーの言葉に、士郎は過敏に反応した。 「まさか番組内で、秀実にエッチなことをさせるんじゃないでしょうね」  いえいえ、とプロデューサーは手を振った。 「例えて言えば、恋人同士が一緒に見て、ちょっと笑ったりできるようなエッチです」 「よけいに解りにくいな」  そこには、監督が助け舟を出した。 「要は、気まずい雰囲気になるほどの激エロじゃない、ってことです」 「なるほど」  秀実はどうなんだ、と士郎はずっと黙っている恋人に声をかけた。 「僕は、ぜひ出演させていただきたいと思います。いろんな経験を、積みたいんです」 「君はいつも一生懸命だなぁ」  しかし、本人がやる気なら話は早い。  後はギャラや契約の交渉に費やされ、秀実のテレビデビューが決まった。 (経験を積みたい、って言いはしたけど)  自分よりかなり大人の交渉を聞きながら、秀実は考えていた。  本音は、別にある。 (ミチルさんに、会ってみたい)  僕と同じ事務所で、同じ撮影スタッフさんたちと仕事をして。 (士郎さんと、共演した人)  ミチルさんと士郎さんの間には、何かあったんだろうか。 『ミチルくん、キスが苦手でね。何度も撮りなおしたんだよ』    そう言った時の、士郎の優しい目を、秀実は今でも覚えていた。

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