75 / 153
第十一章・7
「テレビの仕事、楽しみ?」
士郎に笑顔でそう言われ、秀実は素直に返事ができないでいた。
「楽しみですけど、怖い気もします」
それには、いつものように肩を軽く叩いて励ましてくれる士郎だ。
「大丈夫だよ。緊張してるのか?」
「え? はい……」
本当は、ミチルさんに会うのが怖い。
ミチルさんに会うのが楽しみだけど、怖い。
(士郎さんのことを、ミチルさんはどう思っているんだろう)
そして、士郎さんは今、ミチルさんのことをどう考えているんだろう。
元・恋人、だったりしたら、僕。
僕、どうすればいいのかな。
「士郎さん、あの」
「ん?」
「ミチルさん、って」
「今度はミチルくんと共演だね。がんばれ」
ミチルさんって、どんな人でしたか?
ミチルさんと、どういう関係でしたか?
そう尋ねたいのに、口が開かない。
舌が、うまく回らない。
「ミチルさんって、きれいな人ですね」
そんなことを言って、逃げた。
恐怖を、先延ばしにしていた。
ともだちにシェアしよう!