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第十二章・2
懐かしいな、と囁いた後、ミチルは微笑を浮かべて花束を見つめた。
その後は、何も言わずにただ花を愛でている。
そんな彼には、言葉をかけづらい雰囲気が漂っており、秀実はぺこりと頭を下げた。
「じゃあ、僕はこれで」
ミチルにはそれも聞こえないのか、沈黙で秀実を見送った。
「あんなに、士郎さんからの花を喜ぶなんて」
何も言わなくても、士郎に特別な感情を抱いていることは明白だ。
秀実は、不安を覚えながら楽屋に入った。
ゲストの楽屋には秀実の他にも二人の俳優が控えており、おしゃべりの最中だった。
「あ、噂をすれば影!」
「こっちへおいでよ、秀実くん」
二人ともAV出身の俳優で、ちょうど秀実の話題で盛り上がっていたという。
「秀実くんの作品、観たよ~」
「可愛く撮れてたじゃん!」
そして、純愛ものの相手役・士郎が、超カッコいい、との共通した意見だ。
「いいなぁ、あんなイケメンさんと共演できるなんて!」
「雰囲気、よかったよ。ホントの恋人みたいだった」
そうか、と秀実は思った。
世間一般では、僕は士郎さんの恋人じゃないんだ。
単なる、共演者なんだ。
「凌辱ものの方が抜けるけど、純愛ものの方が好き」
「うんうん、癒される!」
そんなおしゃべりに圧倒され、秀実はお礼を言うしかできなかった。
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