77 / 153

第十二章・2

 懐かしいな、と囁いた後、ミチルは微笑を浮かべて花束を見つめた。  その後は、何も言わずにただ花を愛でている。  そんな彼には、言葉をかけづらい雰囲気が漂っており、秀実はぺこりと頭を下げた。 「じゃあ、僕はこれで」  ミチルにはそれも聞こえないのか、沈黙で秀実を見送った。 「あんなに、士郎さんからの花を喜ぶなんて」  何も言わなくても、士郎に特別な感情を抱いていることは明白だ。  秀実は、不安を覚えながら楽屋に入った。  ゲストの楽屋には秀実の他にも二人の俳優が控えており、おしゃべりの最中だった。 「あ、噂をすれば影!」 「こっちへおいでよ、秀実くん」  二人ともAV出身の俳優で、ちょうど秀実の話題で盛り上がっていたという。 「秀実くんの作品、観たよ~」 「可愛く撮れてたじゃん!」  そして、純愛ものの相手役・士郎が、超カッコいい、との共通した意見だ。 「いいなぁ、あんなイケメンさんと共演できるなんて!」 「雰囲気、よかったよ。ホントの恋人みたいだった」  そうか、と秀実は思った。  世間一般では、僕は士郎さんの恋人じゃないんだ。  単なる、共演者なんだ。 「凌辱ものの方が抜けるけど、純愛ものの方が好き」 「うんうん、癒される!」  そんなおしゃべりに圧倒され、秀実はお礼を言うしかできなかった。

ともだちにシェアしよう!