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第十二章・7

「君と、話がしたいな。今から時間、ある?」  ミチルに誘われ、秀実は迷った。  収録が終わる頃に、士郎が車で迎えに来てくれることになっているのだ。 「ちょっと、電話してもいいですか?」 「いいよ」  少し離れて、秀実は士郎に電話を掛けた。 「士郎さん、ミチルさんと少しお話ししてから帰りたいんですけど」 『いいよ。どこかでお茶するのかな?』 「スタジオの近くに、ファミレスがあるので。そこで」 『じゃあ、頃合いを見てそこへ迎えに行くよ』 「すみません」 『収録、お疲れ様。君のことだから、がんばったんだろうね』 「ありがとうございます」  通話を終え、秀実はほっと一息ついた。  士郎の声を聞いて、強張っていた体の無駄な力が抜けた心地だ。  自然と、笑みもこぼれる。  ミチルは、それを見ていた。 (士郎さんに、電話したんだな)  そんなことを考えながら、ただ秀実を見ていた。  手にした、甘い香りのする花束を、ぎゅっと抱きしめ、見ていた。

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