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第十三章 ミチル
ファミレスに落ち着いても、秀実の心は落ち着くことはなかった。
自分の方からは話さず、ミチルからの質問に返答するにとどまっていた。
いつから俳優やってるの?
仕事は楽しい?
これからも、AV続けていくの?
緊張は、ミチルの方にもあった。
いつ士郎さんに会ったの?
どうして士郎さんが相手役なの?
これからも、士郎さんの傍にいるの?
本当は、そう訊きたい。
だが、彼にはプライドがあった。
どこかで秀実を格下に見ている、おごりがあった。
それらが、素直に秀実から士郎のことを訊きだせないでいた。
ミチルからの質問攻めに答えている、秀実。
そんな彼の鼻を、ふと甘い香りがくすぐった。
花束の中のユリが、芳香を放っているのだ。
(士郎さん)
秀実はその香りに、士郎が傍にいてくれるような気がした。
『秀実は、ミチルくんに何か訊きたいことはないのかい?』
そう、励まされた気がした。
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