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第十三章・3
「事務所の業績が落ちてる、って言われて。それで僕を俳優にした作品を撮ることになったんです」
「AVだよ? イヤじゃなかった?」
「そこは、やっぱり近藤さんにどうしても恩返しがしたくって」
「……士郎さんのこと、好き?」
「大好きです」
その時の秀実のまなざしに、頬にさした赤みに、ミチルは確信した。
(この子は、士郎さんのことを愛してるんだ)
そっか、好きなんだ。
そう軽く笑顔で返したが、ミチルの胸中は穏やかではなかった。
また、秀実の方から反撃が来るとも思っていなかった。
「ミチルさんは、『堕ちる蝶』で士郎さんと共演されてましたよね。士郎さん、やっぱり優しかったですか?」
「観てくれたんだね。士郎さんは優しかったよ、あの作品でも、他の作品でも。それから、撮影の外でも」
プライベートでも、優しかったよ。
そう言うことで、マウントを取ろうとした。
だが、あることに気づいてしまった。
さっきまで、『近藤さん』と呼んでいた秀実が、『士郎さん』に替えている。
「秀実くんは、どうなの? プライベートでの士郎さんとは」
「……お付き合いさせていただいてます」
ミチルの笑みが、こわばった。
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