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第十三章・4

 まるで救いのように、秀実の携帯が鳴った。  士郎からだ。 「すみません」  秀実は、小声で電話に出た。 『もしもし、秀実? 今、駐車場に着いたところだから』 「ありがとうございます」 『ミチルくんとの話が終わったら、おいで』 「はい」  ほんの短いやり取りだった。  秀実の言葉も、『ありがとうございます』『はい』これだけだ。  だがその短い言葉の中に、士郎と秀実の間に築かれた深い信頼関係がうかがえた気が、ミチルにはしていた。 「士郎さんから?」 「ええ。車で待ってくれてるそうです」  ああ、会いたい。  ここに来て、一緒にお喋りがしたい。  士郎さん。  士郎さん。  僕はここにいるのに、なぜ会いに来てくれないの?  ミチルの心は、悲鳴を上げていた。

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