88 / 153
第十三章・6
士郎のプジョーに乗り込んできた秀実を待っていたのは、温かなキスだった。
「ん、ぅん……。士郎さん……」
「お疲れ様。緊張したろう? 大丈夫だった?」
「はい。ミチルさんが、お花ありがとう、っておっしゃってました」
「どうだった? ミチルくんの印象は」
「すごくカッコ良かったです。綺麗で、垢抜けてて。芸能人、って感じがしました」
そう、と士郎はエンジンを掛けながら言った。
「でもね、秀実も立派な芸能人だから。AV俳優だからって、卑屈になることはないよ」
「ありがとうございます」
士郎は車を郊外の高台に止めた。
夕闇の中に見下ろす夜景。
少しずつ明るさを増す街の灯りを、秀実と共に楽しんだ。
「美しいですね」
「そうだね」
そっと肩を抱き、士郎は秀実を車内へといざなった。
ともだちにシェアしよう!