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第十四章・4
「もしもし」
『秀実か? 今、どこにいるんだ』
「どこでもいいでしょう?」
『何だ、その口の利き方は!』
相変わらず、厳格な父だ。
だがそれは、秀実にしか向けられない。
αである兄には、とことん甘い父なのだ。
以前、なぜ僕にだけそんなに厳しいのか、と尋ねたことがある。
『Ωはだらしがないからな。きちんと躾なければ、世間様に顔向けできん』
こんな答えが返ってきて、秀実は絶望した。
この人とは、おそらく生涯解り合えないだろうと確信した。
だから、大学はわざと実家から遠い場所を選んだのだ。
奨学金とバイトで、親にはなるべく甘えないようにした。
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