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第十四章・5

「とにかく、何の用ですか? 何でもないなら、切ります」 『待て。お前、テレビに出たそうだな』 「出ました。それが何か?」 『いかがわしいAVにも、出ているそうじゃないか!』 「ちゃんとした、仕事です」 『大学はどうしたんだ!』 「中退しました。お金がありませんでしたから」 『この……、親不孝者め!』  毅然とした態度で電話をしている秀実だが、その目には涙が光っている。  父親の怒鳴り声は士郎の耳にも届いていたので、彼はそっと秀実から携帯を取った。 「もしもし。お父さん、落ち着いてください」 『な、誰ですか。あなたは』 「近藤といいます。秀実くんを、保護した者です」 『保護?』 「秀実くん、お金が無くてとても困っておられましたから」 『……あんたが秀実を、いやらしいAVに出したのか!?』 「秀実くんも言っていましたが、あれはちゃんとした仕事です」 『家の恥だ! とんでもないことをしてくれたな!』  もうイヤだ。  聞きたくない。  お父さんの声なんか、もう聞きたくないんだ。  秀実はソファのクッションを頭にかぶって、震えていた。  二言三言、士郎が何か言った後、通話は途絶えた。

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