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第十四章・6
「秀実、明日からちょっと、旅行しようか」
「旅行、ですか?」
顔を上げた秀実の目は、赤くなっていた。
その瞼にそっと口づけ、士郎は続けた。
「そう。君の故郷まで、ドライブ旅行」
「え……?」
「お父さんと、三日後に会う約束をしたよ。一緒に行こう」
「父には、会いたくありません」
「私が傍にいてあげるから。今しっかり独立宣言しておかないと」
独立宣言、と秀実は繰り返した。
「そう。秀実はもう20歳の立派な大人だ。自分でしっかりお金も稼いでる」
それを、お父さんに認めさせるんだ。
でなければ、秀実は今後もずっと父の影に怯えて生きることになる。
士郎はそう判断し、とにかく二人を話し合いの席に着かせることにしたのだ。
「大丈夫、かな……」
「気軽に考えよう。さっきも言ったけど、旅行気分で」
「はい」
士郎さんがいてくれるなら、大丈夫。
秀実はようやく、上を向いた。
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