98 / 153

第十四章・8

 夕食は、季節のメニューを出している日本料理の店に入った。 「アユの塩焼き、か。もう夏なんだな」 「初めてお会いした時は、春でしたね」  早いな、季節が巡るのは。  二人、しみじみとアユを味わった。  食事を軽く摂った後は、展望ラウンジのバーでちょっぴりカクテルを楽しむ。  士郎が、やってみたかった、とご機嫌なシチュエーションだ。 「秀実が20歳でよかったよ。おかげで、一緒にこうして飲める」 「僕、あまり強くありませんよ?」 「酔うほどには、飲ませないさ。この後が待ってるんだから」  その言葉に、秀実は頬を染めた。  酔いのせいだけではない、赤み。 (そういえば、ホテルでエッチするのは初めて)  いや、士郎と旅行することが、まず初めてだ。  そんな秀実の気持ちを察してか、士郎がグラスを軽く掲げた。 「いいね、こういうの。これからも、何度でも旅行しよう」 「はい。喜んで」  グラスを合わせ、乾杯した。

ともだちにシェアしよう!