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第十五章 俳優の道
翌日の午後、士郎と秀実は目的地へ着いた。
秀実の故郷。
士郎は、そこのホテルのラウンジで、秀実の父親と会う約束をしていた。
「士郎さん」
「大丈夫だ」
ラウンジのカフェに、すでに父は掛けていた。
「お待たせしました」
その声に、秀実の父・邦夫(くにお)は振り向いた。
「秀実!」
「お父さん」
そして邦夫は、士郎が思いのほか若いことに軽く驚いたようだった。
「あんたが、近藤さんだね? 秀実を返してもらおう」
「まあ、落ち着いてください。少し話をしませんか?」
話すことなどない、と邦夫は早々に席を立ちかけている。
しかし士郎はその逆で、ゆったりとソファに腰かけた。
名刺を出し、頭を下げる。
「秀実くんには、お世話になっております」
その鷹揚な態度に気圧され、邦夫はひとまず座った。
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