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第十五章・3

「秀実くん。ここのコーヒーは、なかなか美味しいよ。飲んでごらん」  は、と秀実は顔を上げた。  士郎さん。  彼の言葉が、思い出された。   『私が傍にいてあげるから。今しっかり独立宣言しておかないと』  そうだ、士郎さんが傍にいてくれてる。  僕の考えを、きちんとお父さんに伝えないといけない。  秀実はコーヒーを一口飲み、邦夫に向き合った。 「始めは、恩返しの気持ちでAVに出演しました。でも今は違います」 「辞めて、家に帰るんだな?」  それには、秀実は首を横に振った。 「僕は、俳優としての道を進みたいんです」 「まだ、エロ俳優を続ける気か!」 「AVの仕事が来れば、それを受けます。他の仕事が来れば、それも受けるつもりでいます」  邦夫は憤った。  従順な、大人しい息子だった。  私の言うことなら、何でも素直にきいてきたのに!  邦夫が声を荒げようとしたその時、士郎が突然両手を合わせて音を立てた。

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