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第十五章・5

 邦夫は士郎から渡された名刺を胡散臭そうに眺め、口をへの字に曲げた。 「近藤さんは確かに、お若くても凄腕でらっしゃる。しかし、AVなんか作っておられるとなると、秀実の品格が問われます」 「お父さん、失礼なこと言わないでください!」  秀実は邦夫を黙らせようと懸命になったが、父は一線を越えてしまった。  士郎を、怒らせてしまったのだ。 「お父さん、AVといえど人の作るものです。撮影スタッフや俳優、営業の、努力の結晶なんですよ?」  それでも士郎の言動は、柔和だった。  しかし、それをいいことに邦夫は嵩(かさ)にかかって喋り続ける。 「KDプロダクション代表取締役・近藤 士郎。御大層な肩書ですが、所詮はAV製作所の社長さんだ」 「……今日は暑いですね。服装を緩めてもいいですか?」 「どうぞ?」  カフェのエアコンは効いているのに。  邦夫は怪訝に思ったが、じきに士郎から目を離せなくなった。  ジャケットを脱ぎ、タイを緩め、シャツのボタンを上から順に三つ外す。  そして士郎は襟をつかんでシャツをずらし、首元から覗く肩口の刺青を邦夫にさらした。 「……!」 「見てお分かりの通り、私はこういう事業もやっております」  邦夫は、震え上がった。  先ほどまでの居丈高なお喋りを、後悔した。

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