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第十五章・7

 コーヒーだけでなく、ケーキまで平らげた秀実は、すっかり元気を取り戻していた。  その様子を確かめて、士郎は大切な話を始めた。 「さっきお父さんに言った、青原 繁のことだけど」 「はい」 「ちょっと、話を盛ってたんだよね。ごめん」  何だ、と秀実は笑った。  あの、『世界の青原』が、僕に声をかけるなんてあるわけない。 「士郎さんの、作り話だったんですね」 「いやいや、全部がそうじゃない。声がかかったのは、本当だ」  オーディションを、受けてみないか?  青原から秀実へ、そうメッセージが送られたのだという。 「次回作に、秀実とイメージが重なる登場人物がいるらしい。もちろん、他にもそういう子は大勢いるので、まずはオーディションを、ということだ」 「僕、受けます。オーディション」 「そう言うと思った。それでこそ、秀実だよ」 「僕が映画出演したら、事務所のAVがたくさん売れますよね!?」 「そんなこと、考えたのか!?」  笑いながら、士郎は秀実の髪をくしゃくしゃにしてあげた。 「損得勘定は抜きで、挑戦してくれ」 「ありがとうございます!」  いい目をしている、と士郎は秀実を眩しく見ていた。

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