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第十六章・2
放っておくわけにもいかず、士郎は電話に出た。
「もしもし、ミチルくん? どうしたんだ?」
聞く気が無くても聞こえてしまう、士郎のやり取りだ。
秀実は息を詰めて、その様子を伺った。
『お久しぶりです、士郎さん。お元気でしたか?』
「先だっては、うちの秀実くんがお世話になったね。ありがとう」
『秀実くん、可愛いですね。士郎さんの、何ですか?』
「おいおい、そんなことを訊くために電話したのか?」
そうじゃありませんけど、気になって、とミチルは落ち着いた声で話す。
そんなこと、すでに知っているのに。
秀実くんの口からハッキリ、お付き合いしている、と聞いたのに。
『実は僕、青原 繁さんから、今度の映画のオーディションを受けないか、ってお誘いを受けて』
「そうか。おめでとう」
『あんまり嬉しかったから、士郎さんに報告したくて。それで』
「うん、解った。でもミチルくんは、もう他所の事務所にいるんだから。そんな大切なことを、外部の人間に話しちゃダメだ」
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