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第十七章・4

 秀実は青原の注文を不思議に感じたが、これまで通り素直に従った。  その場に立ち両手を広げて、かかとを軸にし、ひらりと回転したのだ。  審査員たちは軽く笑い、青原も初めて笑顔を見せた。 (あれ? 僕、何か変なことやらかした?) 「いいよ。私からは以上だ。ありがとう」  青原監督がいい、と言ったのだ。  他の審査員には、もう尋ねることはない。 「では、水流くん。結果は後日お知らせします。退室してください」 「ありがとうございました」  秀実が退室し、他のテスト生が入って来たが、青原はさっきのように口をはさむことはしなかった。 「まずは、君の映画に関する思い入れを、聞かせてくれるかな?」 「はい! 小さい頃から、私は映画が大好きでした!」  そんなやり取りが始まり、青原も一応聞いていた。  しかし、頭の中は先ほどの秀実のことを考えていた。 (若いが、しっかりしている。俳優が現場の全てでないことを、ちゃんと承知している。そして……)  ひらりと回転して見せた姿を思い出し、にやりとした。 (愛嬌がある)  秀実は、確実に青原の心に、その印象を鮮やかに残していた。

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