119 / 153

第十七章・5

「二次選考通過おめでとう、秀美くん!」  AV撮影スタッフの組員たちに、秀実は胴上げされていた。 「わぁあ! あ、ありがとうございます!」  そっと床に下ろしてもらい、秀実はようやく笑顔を見せた。 「これも、皆さんのおかげです」 「いや、秀実くんの実力だよ」  いよいよ、最終選考だな、と皆でざわめき合った。 「最終では、どんなことやるのかな。やっぱり、演技力を見られるのかい?」 「一応、台本をいただきました。この中から、どこかのシーンがテストで出るそうです」  うわぁ、とその場の皆が嫌そうな顔をした。 「青原監督がやりそうなテストだな」 「俳優泣かせの青原、だね」  秀実くん大丈夫? の声に、本人はいたって元気だ。 「僕、がんばります!」  盛り上がる撮影班の組員たちと、秀実。  士郎は、その様子を笑顔で眺めていた。  カフェのマスター・真田においしいコーヒーを淹れさせて、ご機嫌だった。  そんな士郎だったが、目線は秀実を見たまま、真田に話し始めた。 「先日の会合で、仁道会の兼田(かねだ)さんに声を掛けられたよ」 「若頭の兼田 勝大、ですか」 「ウチの傘下に入らないか、だとさ」 「スカウトは、水流だけではない、ということですか」  くっくっと、真田は喉で笑った。 「断れば、抗争、かな。それだけは、避けたい」 「打つ手を、考えましょう」 「うん」  他に漏らすなよ、と釘を刺し、士郎は秀実の元へと歩いて行った。

ともだちにシェアしよう!