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第十八章 もし、士郎さんが……。
『所属する組織の裏切りに遭い、対抗勢力に追われる身となった男 。
傷を負い、路地裏で転がっているところを、一人の娼夫に救われる。
その身も心も尽くした献身的な娼夫に、男は初めて愛を知る。
傷が癒え、裏切りへの報復を始めた男だったが、その行為は愛する娼夫を危険にさらすこととなる。
組織からの、また、対抗勢力からの手が、二人に伸びる……』
「……、というあらすじなんです。この台本」
「ざっくりしてるなぁ。その『男』が、主人公なのか?」
「あ、もちろんこれはストーリーの枝葉に過ぎないそうです。他にも主役級の俳優さんが大勢いらして。群像劇になるんだそうです」
「青原監督お得意の、群像劇か」
じゃあ、その中でもひときわ輝く星になれ。
僕が主役です、と胸を張って言えるような演技をして見せろ。
そう、士郎は秀実を励ました。
「僕、がんばります!」
「その意気だ」
明日はいよいよ、最終選考の日だ。
士郎も時々秀実の練習に付き合っていたが、多忙な彼をそう独り占めはできない。
秀実は、ほぼ一人で毎日台本を読んでは稽古を積んでいた。
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