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第十八章・5

「台本は、読んだね?」 「はい」 「演技練習も、したね?」 「はい」  では、と青原は道下に小声で何か指示をした。  監督の言葉を聞いた道下は、すっと前へ出ると、仰向けに寝転がった。  そして、ぐったりと目を閉じた。 「男は、戦いの末に娼夫を残して命を落とした。彼の遺体を見た娼夫は、どうする?」  それを演じてもらいたい、と青原は言った。  秀実は、動揺した。 (そんなシーン、台本に無かったよ!?)  でも、と気を取り直した。  台本は、擦り切れるほど何度も何度も読んだし、演技練習もしっかりやった。  それを通して感じたことは、この二人は心から愛し合っている、ということだ。  自分と士郎を重ねて、演じたこともあった。 (もし、士郎さんが僕を一人残して死んじゃったら……)  自然と、秀実は涙を一粒ぽろりとこぼした。

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