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第十八章・8

 目をキラキラさせて話す秀実に相づちを打ちながら、士郎は心の中で一つ決意を固めていた。 (仁道会との抗争は、絶対に避けなきゃならないな)  私が抗争の果てに命を落とせば、秀実は泣くだろう。  そんな可哀想なこと、できやしない。 (と、なると。残す道は傘下に収まるか、もう一つ……) 「もう。士郎さん、聞いてますか?」 「え? あ、すまない。考え事をしていた」 「何か、心配事でもあるんですか?」  不安げな、秀実の顔。  いけないよ、秀実。  君にはいつも、笑っていて欲しい。 「今ここで、秀実にキスしたい、と思ってた」 「そ、そんなこと考えてたんですか!?」  ダメか? ではなく、いいだろう? と士郎は秀実の耳元で囁いた。 「え、えと。あの、その……」 「隙あり」  士郎は、秀実の唇を素早く捕えた。 「っん! ぅん、う……」  ざわめくカフェの雑音が、一瞬にして消えた。  コーヒーの香りのする、士郎さんのキス。  秀実は、幸せを噛みしめた。  長く、深く、口づけあっていた。

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