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第十九章・3
「ミチルくん、久しぶり」
そこへ、香り高いコーヒーをトレイに乗せて、士郎がやって来た。
「士郎さん……!」
ミチルの表情が、ぱあっと晴れた。
「士郎さん、僕ね。オーディション落ちちゃった」
「残念だったな。次の機会に、がんばれ」
それからのミチルはもう、秀実には目もくれず士郎に喋り続けた。
「台本に無いシーンの演技をしろ、なんて言われちゃって。それがね……」
聞くと、愛する男が自分を残して死んだ後の演技を見せろ、と言われたらしい。
(僕と同じだ)
秀実は、興味を惹かれた。
ミチルさんは、どんな演技をしたんだろう。
「僕ね、その男は士郎さんだ、って思うことにしたんだ。そしたら涙がどんどん湧いてきて」
男の体に取りすがって号泣した、とミチルは言った。
泣いたという点は秀実と同じだが、泣き方が全く違う。
(人それぞれ、いろんな解釈があるんだな)
秀実は、素直に感心していた。
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