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第十九章・5
ミチルは聞いた。
聞いてしまった。
士郎の口から、直に聞いた。
『私は君とは付き合えない。いや、付き合わない。なぜなら私は、秀実を心から愛しているから』
今までミチルは、好きなように生きてきた。
彼を囲む者は、全てが思うままだった。
あの仁道会の若頭でさえ、手のひらの上で転がしているのだ。
だのに、なぜ。
「どうして、士郎さんだけは僕の言うことをきかないの!?」
人目もはばからず、涙を流しながらミチルは叫んでいた。
「僕ね、今、仁道会の兼田と付き合ってるんだ。彼に頼んで、こんな弱小事務所、潰してもらうことだってできるんだから!」
「好きにしなさい」
錯乱したミチルに反して、士郎はやけにクールだった。
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