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第十九章・6
泣きじゃくりながらカフェを出て行ったミチルと入れ違いに、買い出しに出ていた撮影班が戻ってきた。
「ただいま帰りましたー!」
「ビールもあるぞ!」
淀んでいた空気が、一気に動き出す。
士郎は、秀実の肩をそっと抱いた。
「大丈夫か?」
「僕は平気です。でも、ミチルさんが」
『僕ね、今、仁道会の兼田と付き合ってるんだ。彼に頼んで、こんな弱小事務所、潰してもらうことだってできるんだから!』
あまりにも不吉なミチルの言葉に、秀実は動揺していた。
「心配するな。私たちの世界にも、まだ義理や仁義は残ってるはずだ。そう簡単には、兼田さんも動かないよ」
秀実を安心させるために、士郎は嘘をついていた。
(兼田さんの裏で糸を引いていたのは、ミチルくんだったのか)
だから突然、傘下に入れ、などと。
秀実のためにも、急がないといけないな。
士郎は、忙しく頭を働かせていた。
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