140 / 153

第二十章・4

「降りよう、秀実」 「士郎さん、危険じゃないんですよね?」  大丈夫、と士郎は笑顔だ。 「別に取って食われやしないさ。兼田さんも、話の解らない人じゃない」  士郎はエンジンを止めて車を降り、秀実も後に続いた。 「こんばんは、兼田さん。どういった御用で?」 「すまないな。どうしても今夜中にケリをつけたい、ってコイツがわがまま言うから」  兼田は、隣のミチルの肩を抱いた。  ミチルは、くすくす笑っていた。  笑いながら、嬉しそうに言った。 「士郎さんを、僕のペットにしてあげる。だから、近藤組をちょうだい」  あんまりなミチルの発言に、秀実は目を見張り、兼田は愉快に笑った。  士郎は、顔色ひとつ変えなかった。 「聞いての通りだ。近藤さん、あんたの組、傘下に収めたいんだが、どうだ?」 「兼田さんも大変ですね。ミチルくんは扱いにくいでしょう?」 「そこがまぁ、可愛いんだがね」 「ミチルくん、私は君のペットにはならないよ。そして」  そして。 「そして、兼田さん。せっかくのお誘いですが、近藤組は仁道会の配下にはなりません」 「万が一、抗争になっても、か?」 「抗争にはなりません。なぜなら」  なぜなら。 「なぜなら、近藤組は看板を下ろします。廃業しますから」

ともだちにシェアしよう!