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第二十章・5
「士郎さん!?」
秀実は思わず声を上げ、兼田は口を開けた。
「堅気になった私たちに手を挙げれば、非はそちらにのみ掛かりますよ、兼田さん」
「……考えたな」
兼田は、唇を噛んだ。
「しかしまぁ、極道の面子やプライドまで捨てて、何に義理立てていやがる?」
「組員の命と生活です。それが守れなきゃ、組長として恥だ」
それから。
士郎は、小指を立てた。
「コイツのため、です」
それを見て、兼田はクスリと笑った。
「男だな、近藤さん」
兼田は、抱いていたミチルの肩を掴んで、引いた。
「行くぞ、ミチル」
「イヤだ! 何で!? 士郎さん、どうして!? そんなに僕のものになるのが、イヤなの!?」
「アホ、何を聞いてたんだ。近藤の旦那には、しっかり筋を通して守らなきゃならないものがあるんだよ!」
わめき、暴れるミチルを軽々と車に引きずり込み、兼田は去って行った。
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