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ある春の日に、編 7 サムシングブルー

「えいじー! 準備できた?」  それは春の日。 「……あぁ」  木漏れ日降り注ぐ、よく晴れた、春の日。 「……なんだよ、凪。ボケーっとして。カッコいいとかなんか言えよ」  散歩日和の今日、俺たちは結婚式を挙げるんだ。 「よく似合ってる……凪」 「……」 「ったく、まだ、泣くなよ?」  誰にも祝福なんてされないって思ってたのに。 「が、頑張る!」  ねぇ、お父さん、お母さん、すげぇたくさんの人が来てくれたんだよ。 「ほら、行くぞ」 「うん」  俺が考えたんだ。この結婚式を俺がプロデュースしたんだよ? テーマは「散歩」、青紫色の花をいっぱい散りばめて花畑風に。アネモネ、クレマチス、スミレにパンジー、あと、ラベンダー。指輪にある石、ピアスにある石、それに俺たちが片手ずつ、薬指にあしらった小さな小さなブーケを全部同じ青紫にした。  そんで手を繋いで二人一緒に入るんだよ?  散歩みたいに、ゆっくりのんびり。  英次は俺の家族でさ、恋人だから、ずっと一緒に歩いていくただ一人の人だから、手を繋いで入っていくんだ。皆が祝ってくれるここに、二人で入場していこう。  神様には、あんま誓えない。  けど、それ以上の人たちに約束をしよう。俺のお父さん、お母さん、大きな大きな青紫の花束の前で、二人がいて見守っていてくれるから、ここで誓うんだ。  大きく息を吸い込んだ。繋いだ手に力を込めて。 「私は――」  ずっと彼を愛し続けるって、誓うんだ。 「いやぁ、なんか、すっげぇよかった!」 「あはは、押田、泣いてんの? サラ! ありがとな!」  ずびずび鼻を鳴らす押田に恋人のサラがハンカチを渡した。そして、肩を竦める欧米スタイルのジェスチャーの後、押田と手を繋いで、またもっと号泣させては笑ってる。 「押田も、色々ありがと」  今日、この日のためにすっごい色々やってくれたんだ。むしろこういう展示っぽいことの演出に関してはこっちがプロだからっつって、ほとんどやってくれた。プロって言ったくせに無償でさ。 「いいんだよおおお! 別にいいい! おめでとなー!」 「あんがと」  すげぇ良い親友だって思ってる。 「おめでとう」 「瀬古さん! あ、えっと、本日は本当にありがとうございます。海外から」 「何? 改まって、やだなぁ」  英次が立ち上がりお辞儀をして、俺は追いかけるように慌てて隣で頭を下げた。今、映画の企画ですごく忙しいはず。だから、結婚式は来れないだろうって思ってた。けど、言いたいじゃん。いっぱい俺らのために、英次のために、俺の将来のためにって動いてくれた恩人だから、結婚式を挙げようと思ってるって電話をしたらさ。 「とっても素敵なお式で」  来てくれたんだ。でえええええっかい真っ赤なバラの花束を持ってきてくれた。あとでベッドに散りばめるといいって、またおかしなことを言ってる。仕事ができて、すげぇ人なのに大人のおもちゃをプレゼントしようかどうしようかって、本気で悩む変な人だ。 「えー、ここで、藤志乃英次さん、凪さん宛にと預かった電報を読ませていただきます」  司会はうちの会社の後輩がやってくれた。そうそう、俺、後輩できたんだよ。父さん。二つ下の男子なんだけどさ。恰幅良くて、心がひろーくて、おおらかで、俺がうるさいくらいに飛び回って、フットワークが軽い感じだから、大型犬と小型犬って設定になってるらしい。仲いいよ。楽しく仕事してる。  英次がさ、仲良すぎて心配するかなって思ったんだけど。 「ぞ、ぞれでば、よばぜでいだだぎまず」  すでに号泣で何言ってるのかわかんねぇし。けど、そんくらい優しい奴だから、そういう邪なことは絶対にしないだろうって、英次が認めてた。  誰にでも優しくて、一人メルヘン物語って呼んでたりするくらい。そのうち肩に小鳥を留まらせて出社してきそうなくらい、本当に良い奴なんだ。  それと、最近ね、また仲のいい友だちができたよ。 『拝啓、藤志乃英次様、凪様  ご無沙汰しております。九十九清二です。今、私はイタリアで舞台の仕事をしているため、そちらにはどうしても行けなく、こうして電報にてお祝いの言葉を述べさせていただきました。  本当に本当におめでとうございます。  今日という日が、二人に幸せの雨を降らせますように。  これからの毎日が、お二人にとって、幸せ溢れる日々でありますように。  心から願っております。  最後になりましたが、凪君、あの約束、頑張っています。いつか必ず実現させましょう。  九十九清二』  すっごーい人なんだよ? この前まで一緒に仕事してたんだ。舞台を一緒に作ったんだ。たくさん勉強になった。  最初はさ、なんかヤな感じって思ったけど、違った。自分では納得ができない作品、けど、大勢が関わっていることで変わってしまう色んなもんを自分なりに折り合いつけて飲み込んで、けどやっぱ、そうじゃないって葛藤を繰り返して繰り返してた。けどその作品を皆が大絶賛する。よかったよかったと褒め称える。自分がダメなのか、それともみんなが嘘をついてるのか、わかんなくなって回りが皆嘘をついているように見えてただけなんだ。自分のことを疑ってしまって険しい表情になってただけなんだ。  今はすごく可愛い人だなって思うよ。仲良しなんて言ったら周囲は笑いそうだけど、本当に仲のいい友だちだ。年上だけど、舞台の話をし出すと本当に止まんなくて、英次が入ってくれないと朝までつき合わされちゃうくらい、舞台を愛してる人だよ。 「凪―! こっち向いて!」 「あ、はいっ」  会社の人たちはよくしてくれる。大変だけど、頑張ってる。 「英次さーん! おめでとうございます!」  アステリの時に英次が育てたモデルさんたちはそれぞれの道を進んでる。今ね、朝ドラに英次が育てた人が準主役出てるよ。テレビって天国からでも見えるかな。 「はーい! じゃあ、二人笑って!」  お父さん、お母さん。 「はーい!」  俺は、今日、英次さんと結婚式を挙げたんだよ。

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