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ある春の日に、編 8 ある晴れた夜空に
英次の手はあったかい。小さな頃から、ずっとこの手が大大大大大好きだった。
「はぁ、楽しかったぁ」
「ほれ、うちに着いたぞ。ちゃんと歩けよ」
「歩いてるよー」
「歩いてるのは俺だ。お前はぶら下がってるだけだろうが」
あはは。なるほど。だからふわふわ浮いてるみたいなのか。
この手を掴めたらどんなに幸せだろうかと。
「凪? どうした?」
「んー?」
結婚式の後、近くのホテルに泊まらなかった。
「英次の手を掴んでるの」
「なんでだよ」
「なんでもだよっ」
「ったく、酔っ払いやがって。押田もあれ、最後、サラに置いてかれてないといいけどな」
うちに帰りたかったんだ。俺たちのうちにさ、酔っ払いながら靴を玄関先で放り出すように脱いで、そんでね。
「ただいまぁ」
「おかえり」
そういいたかったんだ。散歩、したらうちに帰るじゃん? だから、ただいまって。
「英次……」
「……おかえり」
「……ン」
キスはどっちからともなくした。唇が重なって、甘い吐息がキスの隙間から零れるように部屋に響く。
キスして、見上げてると、英次がゆっくりと、丁寧に目を開けた。
その瞳がキラキラ輝いていて、とても綺麗で、吸い込まれるように見つめた。
「凪の瞳は綺麗だな」
えー? 俺? 俺じゃないよ。綺麗なのは英次のだよ。
「……綺麗だ」
だから、綺麗なのは英次だってば。けど、言葉は出てこなかった。そっとまた触れた唇のせいだけじゃなくて、今日っていう日に胸がいっぱいだったから。
「英次……」
「……」
「早く、その、えっと」
ハッピーウエディング。皆に祝ってもらって、皆にありがとうって言えて、それを大好きな、愛する人と共にできるなんて素敵な一日だったから、胸がいっぱいで、わかんないよ。こういう時のとっても素敵な誘い方なんて、俺にはわかんなくて。
「えっと、さ……」
ぎゅっと抱きつきながら言葉に迷ったけど。
「あの、早く」
「……」
「ベッド、行きませんか?」
出てきたのがそんな色気皆無で、英次が笑ってた。
「あぁもちろん」
笑いながら、真っ赤になってる俺を抱き上げて楽しそうに、ハイキングでもするみたいに寝室へとそのまま向かった。
「ン……んっあ、英次っ」
首筋を吸われて、英次の頭を胸に抱えるようにしがみついてしまう。
「あっン」
キスマークをつけてもらいながら胸のツンツンって尖がった乳首を摘まれて、また、ぎゅっとしがみつく。
「ン、英次っ、もっ」
もういいよ? 早く。そんな懇願を目で訴えると、齧り付くようにキスをされた。濃厚で密度の高いそのキスに俺はやっぱりしがみついて甘く啼くばっか。角度を変えて、口の中をまさぐられながら、溢れる唾液に濡れることにも感じてる。
「あっ、はぁっ……ぁ」
「……」
「ン、ぁ、英次?」
なんか、いつもよりしゃべらないね。いつもは名前呼んでくれたり、意地悪なこととか言ってきたりするのに。
「英――」
「祝ってもらったな」
「……」
そっと触れてくれた大きな大きな手。
「一生、お前を守るよ」
「……」
「必ず、お前だけは」
「やだ」
小さな頃、この手に頭を撫でてもらいたくてたまらなかった。
「英次も守ってよ。自分のこと」
「……」
「無理そうなら、俺が守る。そんで、一生」
この手を掴んで離したくなかった。
一生、この人だけを愛していくって、もうずっとずっと大昔から、知ってたよ。
「あっ、はぁっ、ぁっんっ」
「凪」
「あ、ン、それ、好き、気持ちイイ」
ずちゅりと甘い音がした。深いとこを英次のペニスで突かれて、また押し出されるように俺のそこから熱が蜜みたいに滴り落ちる。
「やぁぁン」
甘い射精がずっと続いてる。俺のずっと濡れてて、何これ。さっきから感度振り切れてるんだ。
「英次っ、や、噛んじゃ、やだっ」
乳首を食みながら、俺の中を掻き混ぜないで。歯を立てられると刺激が強すぎて、中、ぎゅうぎゅう英次を締め付けて、その形を覚えようとしてる。
「はぁっ、ん」
ズンって深く貫かれて、足の先まで快感が走り抜けた。
「凪」
「ぁ、ン、うん、ン」
「凪」
「ン」
俺の大好きな人が呼んでくれるから、もっと近くに来られるようにって、足を大胆に広げた。
ここ、来てよ。一番奥の一番深いとこの、一番柔らかくて狭い、誰も知らないとこ。
「あっ……」
両手を広げて英次のことたくさん俺の全部丸ごと使って抱き締めたいんだ。
「凪」
「あっん、ン、んんっ」
今日から俺たち一緒だね、みたいなのはないよ。今日から、じゃなくて、俺と英次は今までも今日も明日も、十年前も十年後もずっと一緒だったし、一緒にこれからもいるから。特別だけれど、スタートでもゴールでもなく、特別素敵なお散歩日和な一日だった。
「あっ、あぁっ、ん」
激しくなる律動に俺と英次の心音も重なっていく。
「英次」
手を重ねて、身体も、時間も重ねて。
「英次、ずっと大好きだよ」
明日も晴れだから洗濯物を干そう。たくさん洗って、今ここから遥か高いとこ、天国にいる俺のお父さんお母さんに、英次の兄貴と義姉に、今日も元気だよってたくさん干した洗濯物で教えてあげよう。
「ずっとずっと」
それは春の日、よく晴れた春の夜空、大好きな人を力いっぱい抱き締めた日。
そして、そんな愛しい日が毎日続くんだって、思いながら、俺の愛してる人を、抱きしめた日。
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